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「注文をまちがえる料理店」から考える「観察」の本当の意味


「注文をまちがえる料理店」という取り組みをご存知でしょうか。ホールのスタッフ全員が認知症の方、という世界でも類を見ないレストランで、6月(2日間)と9月(3日間)に期間限定で六本木にオープンしました。
SNS等で話題になったようなのでご存知の方も多いかもしれませんが、あらためてこちらの本が11/10に発売になったのでご紹介させていただきます。

「注文をまちがえるなんて、変なレストランだな」 きっとあなたはそう思うでしょう。 私たちのホールで働く従業員は、 みんな認知症の方々です。 ときどき注文をまちがえるかもしれないことを、 どうかご承知ください。 その代わり、 どのメニューもここでしか味わえない、 特別においしいものだけをそろえました。 「こっちもおいしそうだし、ま、いいか」 そんなあなたの一言が聞けたら、 そしてそのおおらかな気分が、 日本中に広がることを心から願っています。
――「注文をまちがえる料理店」に掲げられたステートメントより

■アイデアが生まれたきっかけ
企画者の小国さんはNHKのディレクター。「プロフェッショナル仕事の流儀」の取材で認知症患者のグループホームを取材した経験が、今回の企画のきっかけとなったようです。
そのグループホームは認知症介護の第一人者である和田行男さんが勤務されていた「グループホームこもれび」。認知症患者といえども、入所者の自律と自主性を重視した取り組みで注目されている施設でした。
その施設では昼食の準備等も入所者が行っており、小国さんもその食事をいただいたそうです。その日のメニューはハンバーグと聞いていた小国さんは、お昼になって目の前に現れた「餃子」に困惑します。「あれ、今日はハンバーグでしたよね?」と言おうとした瞬間、おもわず口を噤(はば)まれました。「それを言ってしまったら、この施設が築いている『あたりまえ』の暮らしが台無しになる気がした」と回顧されています。

■大切なモノは目に見えない
小国さんは、即座に(別にハンバーグが餃子になったって、別にいいんじゃないか。「こうじゃなきゃいけない」といった固定観念にとらわれていたのは自分のほうだ)と気づいたそうです。そしてその時いただいた餃子もとてもおいしかったそうで、「おいしければ問題ない」「認知症であろうとなかろうと、間違いに少しだけ寛容になることで、もっと人は生きやすくなるのではないか」と思われたようです。
そしてその時「注文をまちがえる料理店」というワードと共に、「間違えることを受け入れ、楽しむレストラン」のイメージが沸きあがり、何よりそのレストランを自分が見てみたいという衝動に駆られたといいます。

■イノベーションを生み出す気づき
グループホームでの小国さんの体験を整理してみます。

①聞いていたものと同じものが出てくることが当たり前だと思っていた
②聞いていたものと違うものが出てきてびっくりする自分
③間違いを指摘することは、するべきではないと思った
④「注文を間違える料理店」という言葉と共に、「間違えることを楽しむ世界」という未来のイメージが起こり、実現させたい衝動に駆られた。

抽象的に言い換えると

①無意識に思い込みにとらわれていた自分
②目を疑う事象を目の当たりにする経験
③思い込みが崩壊し、新しい価値観をもった新しい自分が立ち現れた
④アイデアやキーワードと共に、新しい価値観が実現されるイメージが湧き出る、居ても立っても居られない気持ちになる

今で体験したことのない経験をすることによって自分の観念が変化(リフレーミング)し、「実現したい未来像」がアイデアの構想と共に立ち現れたのだと思います。

■観察とは何か
「注文をまちがえる料理店」のイノベーション創出のための気づきのプロセスを紐解いて考えてみると、誰もが同じように、このグループホームを観察したからといって、「間違えを指摘したくないと思った」という感情や、「認知症の人と接することで人の寛容性を変えることができる、そんな社会にしたい」というアイデア構想には結びつかないだろうな、と感じます。
デザイン思考では、観察プロセスが注目されがちです。弊社でもずいぶん前から行動観察・エスノグラフィックアプローチを取り入れた調査やデザイン支援を業務の一環としております。
しかし、観察プロセスとは、消費や生活の現場を観察するという”動的・外的な行為”だけを指しているのではなく、自身の感じ方、モノの見方が変化することを観察(内観)することを含んでおり、イノベーションにおいては、この自分の心の価値観の変化に気が付くこと(内観・内省)がより重要です。

■自分なりの気質・感受性の鋭さを磨こう
当たり前のこととしてスルーされる事象、いいと思わなくても「しかたない」「こんなもんでしょ」といつの間にかあきらめていること、年をとればとるほど、経験を積めば積むほど、組織になじめばなじむほど、環境適応されて訳知り顔になっていきますが、自分なりの違和感や無視できないこと、固有の経験によってもたらされた気づきなどは、オリジナルなアイデアとしてイノベーションの種になる、ということを「注文をまちがえる料理店」の事例は再認識させてくれました。
また、自分の中に感覚の変化を起こすために、さまざまな体験をしたりいろいろな人と積極的にかかわることが大事なのはもちろんですが、さまざまな体験をたくさんすればいいということではなく、自分の感じた違和感や疑問を、丁寧に深堀して真摯に向き合っていくことが重要なのだと思いました。(高橋)


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