「アレもコレもイノベーション!?」 ~成長社会でのイノベーションと成熟社会でのイノベーション~


こんにちは、デザイニング・アウトカムズ研究所の田平です。
製品・サービスが日常生活に定着することがイノベーションの条件なら、「身の周りにあるアレもコレもイノベーションじゃないか!」と思う人もいるかも知れません。
そうです、それもイノベーションだったのです。

本日は「イノベーションは時代によって求められるものが異なる」ということについて述べたいと思います。

以前の記事で、私たちが考えるイノベーションとは「これまでにない新しい生活者体験」であることを前提に、さらに以下の条件を満たすことであると述べました。

 (1)一過性でなく、継続性のあること。
 (2)多くの人に認知され、利用されること。
 (3)必要不可欠で、不可逆的なこと。

つまり、「いずれは生活習慣になるような、これまでにない新しい生活者体験」がイノベーションであるということです。

今、私たちの身近にある製品・サービスは、まさに当時の生活者体験を変え、(1)~(3)の条件を満たした上で、現在までの日常生活に定着して生き残っているものです。もちろんこれらもイノベーションだったのです。

成長社会でのイノベーション

例えば、1950年代後半当時の新しい生活者体験とは、いわゆる「三種の神器」と言われていた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫でした。その後、高度経済成長期の1960年代半ばでは、カラーテレビ、クーラー、自動車が3Cと呼ばれ、当時の生活者の憧れの消費財としてもてはやされました。

テレビは世間の窓口として、お茶の間での情報流通の様子を一変させました。また、洗濯機や冷蔵庫は家事の労働量を大幅に減らし、主婦に新しい生活時間をもたらしました。クーラーは暑寒知らずの快適な空間を実現し、自動車は短時間で長い距離を移動する自由を生活者に与えたのです。

いわゆる「三種の神器」は、電化製品などの耐久消費財を中心に象徴的に扱われていましたが、それだけではありません。インスタント食品、ペットボトル飲料、各種トイレタリー用品などの日用消費財においても、宅配サービス、音楽や映画ソフト等のレンタルサービス、ファーストフードやテーマパークの登場など、各種サービスにおいても同様です。

今でこそ、当たり前過ぎて新鮮味や有り難味がないものの、登場当時はみな、驚きを持って迎え入れられ、これまでにない新しい生活者体験として、ライフスタイルを革新してきた商品も多かったはずです。

これらは成長社会において、その時代の生活者が求めたイノベーションです。物資が欠乏していた時代、消費大国アメリカというお手本があった時代、皆が物質的な豊かさを求める画一化した価値観を目指していた時代に、生活者が渇望した製品・サービスであり、それらも紛れもないイノベーションだったのです。

少なくとも成長社会でのイノベーションでは、明らかに不足しているモノが供給されることに大きな喜びがありました。また、商品そのものに技術的な向上の余地があったため、性能や機能の改善活動で、生活者の購買意欲を十分刺激することができたのです。

この絶え間ない技術的向上が、あたかもライフスタイルの変化に直結しているかのように見えたため、多くの日本人が「技術革新こそがイノベーション!」と思い込んでしまったのも仕方のない事なのかも知れません。

成熟社会でのイノベーション

しかし、私たちが直面している課題はここからです。

成長社会を終えて、成熟社会に突入した日本において、何がイノベーションとして求められているのでしょうか? -つまり、既に物質的には十分満たされており、お手本となる国が見当たらず、価値観が多種多様になった社会において、「これまでにない新しい生活者体験であり、いずれは生活習慣となる」と、自信を持って世に送り出せるものは何か、ということです。

巷にモノやサービスが氾濫し、単なるモノの漸進的な改善活動だけでは、商品の価値や魅力の差別化・訴求化が難しくなってきた時代に、私たちは技術革新だけでは達成しえない課題を突き付けられているのです。

ここで、シンプルに考えてみましょう。仮に成長社会に求められていたイノベーションが物資の充足であったならば、それは当時の生活の質の向上のために達成したい社会課題であったはずです。であれば、現在の成熟社会において、生活の質の向上のために達成したい社会課題とは何でしょうか?

それを考える材料として、ここ20年余りのインターネットを社会基盤とした情報革命以降の生活空間とそれ以前の生活空間の違いに対する考察が重要なポイントとなりそうです。この時代を境に、生活者を取り巻く生活環境や社会的資源がガラリと変貌しています。それに伴い、生活者の意識や生活時間、生活で成し得たいことも大きく変わってきているはずです。

そんな中、残念ながら現在の多くの企業は、インターネットを社会基盤とした情報革命以前に確立された産業生態系とその価値観で、旧態依然としたビジネスを連綿と無意識に続けてしまっています。

一方で、日本に限らず、大量生産・大量消費の近代消費社会を享受してきた先進諸国おいて、このガラリと変わった時代の中で、新たに生じ始めている共通の社会課題を数多く抱えているはずです。

イノベーションとは、その時代の社会課題を達成することに他なりません。成熟した社会をあらためて読み解いた上で、「今、求められている生活の質の向上とは一体何か」を問い直すことに、イノベーションのヒントが隠れているのではないでしょうか?