笛吹けど踊れず!? ~ イノベーション創出の無理難題? ~


こんにちは、デザイニング・アウトカムズ研究所の田平です。
イノベーションは身近なものですが、その創出はそう簡単なものではありません。
今回は、日本の企業が苦労している部分にスポットを当ててみましょう。

まずは、下のグラフをご覧ください。これは三菱総合研究所のマンスリーレビュー(2016年8月号)に記載されていたものです。国内45の企業のイノベーション担当マネージャーが回答した、イノベーション創出に関わる状況(上)とその課題認識(下)です。

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このグラフをみると、経営層から「イノベーションを起せ!」というメッセージが多くなっていることが分かります(68.9%)。同時に、イノベーション創出に関する具体的な取り組みが増加し(53.3%)、そのための専門組織の新設(35.6%)が盛んであることが読み取れます。

一方、課題としては、イノベーションの定義がハッキリしない(53.3%)、取り組みの成果が出ていない(46.7%)、取り組みに確信が持てない(31.1%)、偶発的なイノベーションに留まり、継続的な創出に繋がっていない(26.7%)などが主な認識のようです。

つまり、「経営層は笛吹けど、現場は踊れず・・・」といった様子がうかがえます。

ではなぜ、このような現象が起きているのでしょうか?

私たちも、イノベーション創出については、それなりに心構えのある企業に対してお手伝いをしてきました。そのような企業でも、最終的には尻込みしてしまうケースも多々ありました。私たちの力不足でもあるのですが、その中で感じたイノベーション創出の阻害要因とその克服方法について述べたいと思います。

従来のビジネス文化から抜けられない!

先日の記事とも関連するのですが、多くのビジネスマンの思考癖と仕事習慣、企業の組織体制、産業界全体のエコシステムは、日本の高度成長時代から成熟社会にかけての成功体験をもとに最適化されています。そのビジネス文化が教育・研修、OJTとして脈々と継承されています。

この従来からのビジネス文化の継承は、非常に強固なもので、イマドキの環境で育ち、新しい考え方や感覚を持った人材が入ってきても、この継承によって、従来のビジネス文化に違和感なく馴染んでしまうものです。

そして、少しずつ移り変わる時代趨勢、生活環境と生活ニーズの変化の中、5年も経って振り返ると、驚くほど世の中が変わっているはずなのに、白内障の患者のごとく、人間はそれに気づくことがありません。

特に、成長社会から成熟社会への転換点を経験している日本においては、意識して新しいビジネス文化に移行すべきなのに、従来のビジネス文化から、なかなか抜け出せていないのが実情です。

新しい体制づくり、メソッド、プロセス導入だけではダメ!

「いや、それでも変えている!」と思う人もいるかもしれません。事実、冒頭の調査のQ2_1で明らかのように、「そもそも手の付け方が分からない」という企業は13.3%と少なく、多くの企業では、変わるためのスタートが切れているようです。

そして、経営側はイノベーション創出に向けたメッセージを発し、専門部署を設置し、予算をつけています。現場では、デザイン思考によるオープンイノベーション、社内アイデアコンテストなどが盛んです。

しかしながら、Q1_7で明らかのように、「すでにイノベーション創出に成功している」という企業は僅か4.4%に過ぎず、多くは「成果が出ているのかどうかも分からない」、「成果は偶発的に過ぎない」というのが、アンケート結果が示している実態です。

このように、成果に繋がらないのは、従来のビジネス文化の枠組み中で、新しい体制づくり、新しいメソッドやプロセスだけを表面的に導入しているからです。これでは、従来のビジネスの延長線上としての改善活動にしかなりません。

この状況を打破するためには、新しい体制づくり、新しいメソッドやプロセス、-つまり新しい仕組みの表面的な導入だけではなく、長い間、馴れ親しんできた従来のビジネス文化の中で、当たり前と思い込んでいたビジネスマンとしての思考癖と仕事習慣そのものを刷新する必要があります。

ひとりひとりの思考の変化が、新しいビジネス文化を生み出す

とは言うものの、脳機能の観点からみて、自分自身や周囲の人々のビジネスの思考癖と仕事習慣を変えることはそう容易ではありません。なぜなら人間の心理と行動は、文化や環境のコンテクストに高度に依存するからです。そしてその依存した状態は、人間にとってエネルギー支出が少なく済み、リスクが小さく、非常に快適で効率的なのです。

そしてこの依存した状態の方が、仕事をマルチタスクで無意識に進めることができ、失敗も少なく、周囲から仕事がデキる人と認識されます。多くの人々が、従来から馴れ親しんだビジネスの思考癖や仕事習慣から抜けられないのは、この仕事上の「快楽」をもっとたくさん得たいと脳が欲しているからなのです。

もちろん、その進め方が時代の要請と合致しているなら、最高のパフォーマンスを発揮します。しかしながら、時代が移り変わり、従来とは違った価値が求められる時にそれに気づかないでいると、これまでのビジネスの思考癖や仕事習慣が、かえってイノベーション創出の阻害要因となってしまうのです。

ところで、自分自身の思考癖と仕事習慣を新しく変えたみたところで、取り巻くビジネス文化が旧態依然としていれば、それを貫くことは非常に難しいとも言えます。先ほど述べたように、人間は文化や環境に高度に依存しているからです。

これに抗って活動すれば、エネルギーもたくさん使いますし、周囲の理解や評価が得られないまま反発だけを喰らい、疲弊し、徒労に終わってしまうことも少なくはありません。つまり、これらの活動を受容れる土壌や環境がないと、思考癖や仕事習慣も変えようもないというのも事実です。

その意味では、各企業において、イノベーション創出に向けた新しいビジネス文化の構築が、表面的にでも土壌づくり・環境整備から進んでいることはとても喜ばしい事です。

しかしながら、確実な成果に繋がる新しいビジネス文化を確立するためには、何かしらの社会的価値の変化をきっかけに、それに呼応するひとりひとりの思考に、本質的な変化が伴わなければ始まらないというのも事実なのです。

最初は苦しいが、習慣化してしまえば楽なものです!

では、どのようにすると新しいビジネス文化を手に入れることができるのでしょうか?

それは、思い切って先入観に汚染された従来のビジネスの思考癖と仕事習慣を捨て、「現代におけるイノベーション創出に必要な新しいビジネスマンの思考とは何か?」をあらためて問うことです。そしてそれを意識的に取り入れ、無意識に働くようになるまで繰り返し実践して習慣化させる、このようなプロセスが必要です。

最初は「イノベーション創出のために自分自身を変えたい!」と強い意志を持つ少人数から始まることかもしれません。また、外部からの力を借りることも有効でしょう。「そもそも脱ぎ捨て去るべき思考癖、仕事習慣とは何か?」の特定作業から始める必要があるかも知れません。

この活動は、それなりに時間もかかり、エネルギーを必要としますが、習慣化してしまえば無意識に働き始めるはずです。

その新たな思考で、産業界全体のエコシステム、組織体制の在り方やメソッドとプロセスを再考すると、これまでとは違った視座・視点から、新たな疑問が生じ、課題の発見につながり、確実な成果を生むための新しい仕組みの運用方法や方略の本質が、新たに見えてくるかも知れません。

イノベーションを創出するためには、新しい仕組みの導入だけで安心してはいけません。なによりも、あなた自身のマインドセット変えるところから始まるのです。